子どもの時に慢性湿疹で困ったのをきっかけに皮膚科医を目指し,2年間の内科研修の後には皮膚科入局を
予定していました.内科研修の中で循環器は一番難しいイメージがあり,その基本である心電図を勉強しようと本を買ってはみたものの,最初に+や-の記号や
ベクトルが出てきて嫌いになった思い出があります.
現在,東京都済生会中央病院の常勤顧問として日々循環器診療にあたっておられる三田村秀雄先生からは「心臓はポンプの役目しかない単純な臓器で病気の種
類も一番少ないよ」と教わりました.その新人ナースを対象とした勉強会では“今ハートウォッチングがトレンディー”と題して「土曜の深夜,君は何をしてい
る? もしモニターの前でハートウォッチングしているのなら君はデキル.心電図モニターは他人に打ち明けられない胸の痛みを,離れていてもST変化として
バラしてしまう恐ろしい機械だ.心拍数の変化はウソ発見器としても使え,近づいた人の心拍数が増えれば君はひょっとして美人かも…….心拍数が遅くなるな
ら君には人の心を休める才能があると解釈しよう」.また「ハートウォッチングの達人はP波を男の子,QRS波を女の子とみる.若い男の子なら誰しも当然目
につくのが女の子で,女の子がいなければ死んでしまう.女の子が多過ぎてもドキドキし,特にグラマーな女性(wide
QRS)ばかり(VT)だと気を失うかもしれないし,死んでもいいという人もいる.要はまず女の子の数をみて,次にスリムな子とグラマーな子を見分け,そ
の後男の子も一応みる.最後に男の子と女の子が手をつないでツーショットか,仲が悪いかをみる」との名調子....気がついたら私は循環器の専門医になっ
ていました.
縁があって2006年4月より,研修医人気No.1の国立病院機構東京医療センターの循環器科に赴任しました.2学年で50名の研修医が各科をローテー
トし,循環器科では現在スタッフ医師5名と循環器科後期研修医5名,そしてローテーションの初期研修医数名で日常診療にあたっています.研修医が多いこと
もあって教育に力を入れ,毎日のようにカンファレンスやクルズスを行っています.これらにまじめに取り組む姿勢は大切ですが,ときに三田村先生を見習って
『愉快で楽しい』レクチャーができるよう心掛けているつもりです.